:::::「 見上げる角度 」:::::




「──…背、伸びたか…?」

 ふと見上げたアサトが遠い気がして、思わずコノエは呟いた。

「…そうか?」

 全く気にしたこともなかったという様子で、アサトが聞き返して来る。


 こうやって並んで歩いていると、コノエはどうしても見上げる形になる。
 同じ小型種だというのに…。
 少々不満を感じる。

「そういえば…」

 カルツも背は高かった。
 悪魔の迫力なのかと思っていたが、猫の時からそうだったのかもしれない。

「どうした?」

「いや、血筋なのかなと思って…」

 と、口にしてから、ハッとした。

「──あ、…ごめん…」

 アサトの血。
 全てが解決したとはいえ、それは歓迎されるべきものではなかった。

「もう、気にしてない」

 困ったような顔になったコノエとは逆に、アサトは優しく笑った。

 嘘をつくのが苦手なことは解っているから、おそらく本心なのだろう。


「コノエは、大きくならなくてもいい。その分、俺が大きくなってコノエを守る」

「……それは…困る…」

 相変わらずストレートな物言いが、嬉しくない訳ではない。
 けれど、暗に小さいと言われるのは複雑だ。
 そして、アサトだけが成長しているのかと思うのも…少し、悔しい。

 そんな事を思いながら、改めて横を歩くアサトを見上げた。


 ──あぁ。

 そうか。

 背が伸びたのかと思った。

 確かに伸びたのかもしれない。

 それよりも。


 まっすぐ前を向いて歩くようになったのだ。
 視線を上げて、力強く。

 いくら他の猫の眼を気にしないとは言っていても、やはり吉良にいた頃はどこか心を閉ざしていた。
 こうしてコノエとふたりで旅をするようになってから、自信とでも言うのだろうか…。
 拒絶しない強さが溢れ始めた。

 その気持ちの変化のせい、なのだろう。
 アサトが大きく見えたのは。


「俺も、大きくなるからな」

 悪戯っぽく、コノエはが笑った。

「楽しみにしてる」

 アサトも小さく笑って返す。

「…信じてないだろ?」


 そんな遣り取りをしながら、二匹は新緑の森をゆっくりと歩いた──


                          (終)

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アサコノ。
アサトはコノエたん大好きなまんま、落ち着きを見せたオトナに成長していけばいい…!(夢)