【 mutual-ing 】




「あ、…ちょ…っと、待っ…!」

 すると、蒼葉の胸に顔を埋めたノイズが、気だるげに視線を上げた。

「─ … 何?」

 その濡れた声にも熱っぽい眼にも強烈な色気があって、
 既に上がっていた蒼葉の心拍数は更に跳ね上がった。


 けれど、負けずに言葉を絞り出す。

「えぇと…その……、怪我は、もうすっかり大丈夫、なんだろ…?」

「? あぁ」

 少し怪訝な顔をしながらもノイズが頷いた。

「最初は…ほら、お前にあんま無理させらんねぇなーと思ってて…さ」

「…?」

 最初。
 今思い出せば、すごいことをしたものだと思うが…。
 病室で…というのはこの際置いておいて。

 あの時は、まだノイズの怪我が完治していなかったから、
 でも触れたくて…自然と、蒼葉が受け入れる形になっていた。


「なんかそれから、いつもその…俺が…されてるんだけど…」

 言いにくくてボソボソと口篭もる。

 怪我が治って再会してから、
 何度こうして体を重ねたかわからない。
 すっかり回復したノイズは、
 それまでの無関心ぶりが嘘だったかのように
 蒼葉に触れたくて堪らないようだ。

 それは正直…嬉しかったし、
 蒼葉自身も求めていることだと、わかっている。
 受け入れることは構わないのだが…。


 と、察したらしいノイズが口端を上げた。

「もしかして、アンタがやってみたい?」


「…俺も、男だし…」

 ─ お前、可愛いし…。

 とは、口には出さずに心の中だけに留めておく。


「ふぅん…。ちょっと触っただけで、こんなになってるのに?」

「ぁ…、それは…」

 ニヤリと笑ったノイズが蒼葉の下肢をすっと撫でる。
 それだけでビクリと反応してしまうが、ここで引き下がる訳にはいかない。


「俺の方が年上だし…」

「それは関係なくね? むしろ俺の方が体力あるし」

「いや、まぁ…そうだけ、ど…とにかく!」

 言って、蒼葉は腹の上で見下ろしていたノイズの首をぐっと抱き寄せる。
 そのまま軽く唇を食み、耳元で囁く。


「今日は…俺が、したい」

 無意識に熱っぽくなった言葉に、ノイズの動きが止まる。
 そして、それから溜息が聞こえた。

「……ずるいだろ、アンタ」

「え…?」

「自覚ねぇし…」

 もう一度、今度は呆れたような溜息。

 そう言われても蒼葉には何のことだか分からなかったが、
 それは了承ということだろうか?

 改めて蒼葉が唇を合わせようとすると、

「っ…ん、…ノイズ…!」

 思い切りノイズが伸し掛かってきて身動きが取れなくなる。


「じゃあさ、勝負…しようぜ?」

「ん、…なに?」

「これ…」

「っあ…!」

 密着していた肌を掻き分けるようにして、
 熱い手のひらが無造作に曝け出されていた敏感な場所を撫で上げた。

「持ちこたえた方が入れんの。…どう?」

「…っ!」

 それって…。

「自信ねぇなら別にいーけど」

 ─ そこまで言われたら、妙なプライドが頭をもたげる。

「なくねぇよ。ホラ、場所替われ」

 俄然気合を入れ、蒼葉は伸し掛かっていたノイズを退かして
 跨るようにして腹の上に乗り上げた。

「お手並み拝見」

「言ってろ」

 生意気な唇を啄ばんで、肌に手を伸ばす。
 すると、すぐにノイズの手も蒼葉の肌を撫で始めた。

 今までの戦績では少々分が悪いのは承知の上だ。
 そんな遣り取りも愉しんで、お互いを感じる。

 二人だけしか知らない夜は
 まだ始まったばかりだ。






END(2012.4)