【 greedy voice 】




「もう、これも使わなくても良さそうだな」

 ジャラジャラと鳴る重たい鎖の拘束具を解きながら言うのはウイルス。
 ぼうっとしていた頭に空気が入ってくる。

「もう、俺たちの蒼葉だし」

 キツく締められていた喉に残る跡を辿るのはトリップ。
 大きく呼吸する度に指が食い込むようだ。

 見ているし、感じている。
 けれど、なんだかよくわからない。
 つい先ほどまで与えられていた快楽の余韻が体中を支配している。

 いつからだろうか。
 快楽以外を認識しなくなったのは。


「本当は、俺たちだって蒼葉さんの声を聴きたいんですよ」

 ウイルスの長い指が唇に触れる。

 ─ 声…。

「そうそう。でも、もう枯れちゃった?」

 声…。

 それには力があるから…。

 まだ快楽以外を覚えていた頃。
 「声」を出そうとしたら、
 喉をギリギリまで締め付けられる枷を嵌められた。

 なんとか息が出来る状態で何度も何度も…
 この二人に代わる代わる貪られて。

 大きく喘ぎたいのに息が足りなくて。
 苦しくなって頭が朦朧として…

 それすらも、脳は快楽として受け取るようになった。





「それじゃあ蒼葉さん、大人しく待ってて下さいね」

「蒼葉、またあとで」


それまでの激しさも淫靡さも全く感じさせない口調で、
衣服を整えたウイルスとトリップが立ち上がった。


「─あ…」


 声が、出た。

 また止められる。
 と思ったが、二人は気に留めず部屋を出て行こうとする。


 声が…出る。

 今なら…。


 心の中で何かがざわめく。


 ─壊したい…。

 破壊、壊す…衝動。


 その行き着く先は。


「─ 待て」

 痛めつけられた喉から洩れる声は掠れていたけれど。


「蒼葉?」
「蒼葉さん?」

 同時に二人が振り返る。


 その間に、大きく息を吸い込み、


「…! トリップ」
「あぁ」


 また、止められる前に。


 スローモーションで駆け寄ってくるウイルスとトリップの眼を見上げて喉を震わせる。



『……もっと』



 ピタリと、二人の足が止まった。






『もっと…』






 ─ 俺を、壊して…。






END(2012.3)