-:-:-:壊レタ鎖:-:-:-:-




 昏く、錆び付いた街にも。
 陽が昇り、また沈む。

 もう何度、光と闇が繰り返されたのか。
 解らない。
 この場所に来る以前の事が思い出せないほど…。


 熱い痛みの支配する現実。

 …現実?

 それすらも危うい。
 体をどこかに置いてきたような浮遊感。
 痛みと愉悦と苦痛と快楽…。
 それだけが支配する世界。


「…おい、つまんねーぞー」

 乗り上げたまま、荒い息の中で喚く声。

「なんで鳴かねぇんだよ」

 つまんないなら、もう…。
 そう言葉にした所で、打ち付けられる腰が去る訳もない。
 こいつに捕まってから、数え切れないほど繰り返された行為。

 もう…。
 言葉にしても…。

 すべての感覚が遠のいて行く。
 こんなになるまで、何故気付かなかったのだろう。

 楽になる呪文。
 それは、「諦め」────。






「お。今日はお嬢ちゃんと遊んでねぇのかよ」

 いつものニヤニヤ顔に下品さを滲ませた顔でキリヲが入ってきた。
 同じ部屋にいようが同じ部屋で何をしていようが気にしない関係。
 しかし、まるで無関心な訳ではない。
 しかも、最近のグンジのお気に入りがこの拾ってきた猫であることは一目瞭然だ。

「うっせージジィ…こいつ、この頃つまんねーんだよ」

 と、また喚きながら、横たわるアキラの髪を引っ張った。
 前なら、苦痛に眉根を寄せて睨め上げて来た。

 それが、今はただ、されるがままに虚ろな目を彷徨わせている。

「イっちまったんじゃねーのぉ、そいつ? お前、構いすぎるからだぜ」

「あんだよそれー可愛がってやってんじゃねぇかよぉ」

「ノラってのは構いすぎんとストレス溜まってイっちまうんだバーカ」

 ストレスってーとあれか? トラウマってヤツかー? だったら虎の話かー?
 などと訳の解らないことを呟くキリヲは気にもせず、グンジは黙ってアキラを覗き込んだ。


「あーーーーもう、やめだやめ!」

 不意に声を張り上げ、グンジは更に軽くなったアキラの体を抱えて戸口へ向かった。


「おまえ、つまんねーから捨てる」

 扉の外まで出てからアキラを下ろし、グンジが言った。

 アキラは状況について行けず、ただ呆然と声の主を見上げるしかない。
 鬱陶しいくらいに掛かった前髪で、その表情は見えない。


 捨てる。


「あぁ? なんでヤっちまわねーんだよ」

「ジジーは黙ってろよなぁ!」


 生きてる…?


 唐突に降ってきたそれは。
 自由?


「ノラならいーんだろ、ノラなら」

「んー? あぁ…そーいうことか」

 微かに口端を歪めて笑ったグンジに、キリヲが頷いた。

「もともと、俺らの好みはそーだったもんなぁ」

「だからつまんなかったんだよな、きっとー」

 楽しげに舌なめずりする二人を気にする余裕はない。
 力の入らない体のはずが、自然と動き出す。
 今、逃げなければ…。

 アキラは申し訳程度に引っ掛かっていた衣服を押さえ、おぼつかない足取りで駆け出した。
 処刑人たちが追って来る気配はない。

 その代わり、アキラの去った後に呟かれた言葉も聞く事はなかった。


「さぁ逃げろよ、ねこちゃん…俺を楽しませてくれよなぁ!」


 高らかに笑った声も、アキラには届かなかった。



 鎖は解き放たれた。
 だが。
 見えない首枷が外れることはない────。



                          (了)









+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
狩猟本能なグンジで。
飼い殺しもいいけど、こっちも捨て難い。
そんな妄想の一端。
でも、動物をそんな簡単に捨てちゃダメですってば。
…まず、人間をそんな簡単に拾ってきちゃダメですか。そーですか。

なんかこれ、2時間くらいで書いた…な…。私の中では速い。
って、あ、えろないからか。(ぇ)