-:-:-:Dead Line:-:-:-:-



「つーまんねぇなぁ…」

 何の緊張感もなく、グンジが呟いた。
 ──戦地のど真ん中だというのに。

「アァ…。つまんねーよ」

 横でキリヲも呟く。


 CFCと日興連の内戦が始まった。
 今まで好き勝手にやっていたヴィスキオは、紛争地帯になるトシマから撤退。
 よって、処刑人の役目もなくなった。
 いや、アルビトロの警護という役目はある。
 だが、そんな楽しくも何ともない事、──やってられない。

 内戦では存分に敵兵を殺せというクセに、街で殺すのはいけないそうだ。
 だったら、アルビトロの傍にいる理由もない。
 トシマで処刑人の仕事に当たっていたのは、追いかけっこが楽しかったからだ。
 ここに、そんな遊びはない。
 
 つまらない。

 それなら。
 思いっきり遊べる場所に行けばいい。




 …そう思って、わざわざ、紛争地帯に舞い戻って来たというのに。

「つまんねぇよなぁったくよォ…。…ンだよ、コレ…」

 言って、グンジは転がっていたサブマシンガンを持ち上げ構えてみせた。
 微かに風が動いた方向へ向け、無造作に引き金を引く。
 軽い連射音が凄まじい勢いで響き、遠くでドサっと何かの倒れる音がした。

「あー…つまんねぇ…。こんなんで殺ってよォ…なーんか楽しい?」

「楽しかねェよなァ…。肉のひしゃげる感触もさァ…命乞いの絶叫もさァ…なーんもねぇ…」

「だよなー。こんなもんに頼ってっからよー、雑魚ばっかだしィ」

 グンジは弾のなくなった武器を簡単に投げ捨てた。


 大体、核は禁止、紛争地帯以外での殺しは禁止。
 だったら何故、銃火器類での殺しは許されるのか。
 その決まり事のボーダーラインが解らない。
 イグラだって相当に狂っていると言われていたが、この紛争と何か違うのか。

 少なくとも、二人にとってはイグラの方が面白かった。
 ここには、掌中で命を握り潰す感覚がない。
 だからこそ殺せるという兵士もいるらしいが、そんな雑魚は戦場に来るなと言いたい。
 何も楽しくない。


「もうさァ…。ダメだな」

 キリヲがどうでもよさそうに呟いた。

「あぁ…ダメだぜ」

「どーするよ」

「どーっすかなァ…」


 ダラダラと廃墟の狭間を歩いていると、複数の人間に囲まれたようだった。
 先ほどの銃劇が響いていたのかもしれない。
 そんなことも、どうでもいい。

「ザコどもがさァ、遊びてェみてーだなァ…」

「なーんも楽しくねぇけどぉ…遊んでやっかぁ?」

「アァ…」

 ニヤリとキリヲが頷いた。
 不敵に口端を上げて返し、ダルそうな気配を一転したグンジが、瞬時に飛んだ。










「ヒャハハハハ…ッ! そーだよなぁ、この感触だよなァ!!!!」

 間合いに入ってしまえば、肉食獣の血が騒ぐ。
 銃を取り上げて鉤爪を突きつけると、脅えた顔が震える。

 紛れもなく恐怖を感じた顔。
 背筋がゾクゾクする。
 支配の実感。

 しかし、ふと、グンジの表情が曇る。
 そして、哀れむような口調で呟いた。

「でもさぁ…。お前、弱すぎるよ…」

 やっぱり、こんな雑魚をいたぶってもダメだ。
 ここにいるのは、力自慢で自ら乗り込んできた輩とは違う。
 武器もなければ何の骨もない者ばかりだ。

「…っは…弱ぇ弱ぇ…」

 苛々と、グンジは鉤爪を振り下ろした。

 逃げようとする動きすら、鍛え抜かれた者とは違ってどこか緩慢に見える。
 鳴き声までか細い。

 だから、飽きた。

「つまんねぇよ…」

 退屈が人を殺すとはこんな感じだろうか。

 グンジは興味のなくなったモノから手を離し、鉤爪の鮮血を払った。

 いつの間にかキリヲは別の獲物を追いかけて行ったらしく、辺りに姿は見えなかった。


 周りの気配が、近付いてくるのが判る。
 草食動物たちが、恐る恐る殺気で取り囲んでいる。
 だが、逃げようとも思わなかった。

「なぁ…ちょっとはさー…楽しませてくれよ」

 そう言った瞬間。

 ──パン…。

 軽い銃声が、廃墟の合間に反響した。

 僅かに遅れて伝わる、腹の辺りの違和感。

「…てぇなぁ…」

 その顔は、何故か笑みに歪んだ。

 弾丸は脇腹を掠っていったらしい。
 抉れた箇所が生暖かいのは、血でも滴っているのだろう。

「誰かなー? 今撃ったの…さぁ」

 前髪に隠れた獲物を狙う眼が、楽しそうに眇められた。
 狂気の光景に唖然としたのか、辺りからは息を呑む音が聞こえた。

「まだなーんにもしてないじゃん? なぁにビビってんのォ?」

 グンジがニヤニヤ笑いながら、獲物の1匹に近寄る。
 さっき撃った奴かどうかは関係ない。どうせ、どれも同じだ。

「ヒ…ッ…」

 地面にへたり込んだ男が悲鳴にもならない空気を洩らす。
 それでも頑張って銃を構えている。
 いくら震えの止まらない手でも、これだけ近くまで寄れば外しはしないだろう。
 だが、男は撃とうとしなかった。
 グンジの異様な雰囲気に気圧されたのだ。

「なぁ。撃てよ。ほら、撃ちてーんだろ?」

 そんな男に追い討ちを掛けるように、グンジが更に寄る。
 鉤爪の嵌まった長い腕を、男の眼前に突き出す。
 男はついに、震えた手から銃を落とした。

「ハッ…! ほんとの甘ちゃんかよ!…なァ!!!!!」

 グンジの眼がギラリと光り、その爪が目の前の男に埋まった。

 悲痛な叫びが響き渡ったその瞬間。


 四方から一斉に、銃劇が聞こえた──。









「ハ…ヒャ…ハハハハハ…ッッッ…!!!!!」


 衝撃に倒れかけて体が傾く。


「そう……そうでなくっちゃよォ!!!!!!!!!!」


 痛み?

 そうなのかもしれない。


「アハハハ…そーでなくっちゃさぁ…」


 音は止まない。



「楽しくねぇからさぁマジで」

 高速の風に抉られていく。




 赤い。

 赤い。


「ヒャハハ…」


 揺れる。


 ぼやける。


 遠ざかる。



「…ハハ…ッ」



 そして。




 黒──────。






                          (終)









+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
…どこまで書こうか迷ったんですが…;
こんな形で。

きっとグンジは長生きしないだろうっつー話。
楽しくなかったら絶対生きてられないと思うですよ。
そして、絶対、キレイに死んだりしないと思うですよ。

私の頭の中には映像であるんですが、たぶん文じゃ出しきれてないだろうな…>< もどかしい。

良い子はマネしちゃダメですよ。