「灯る面影」
(源泉×アキラ)



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「あー…そうか」

 あの悪夢のようなトシマの街を抜け出して、数年。
 日常はすっかり落ち着きを取り戻し、アキラは源泉の隣にいることが当たり前になっていた。
 そして…。

 それは、意外にも器用に料理をこなす源泉を、アキラが横で手伝っている時だった。

 咥え煙草のまま鍋を掻き回していた源泉が、ふと真剣に包丁を握るアキラを見て呟いた。

 それから、ますます「ふーん…」「ほう…」と一人頷きながら穴が空くほどにアキラを見る。

 最初は無視をしていたアキラも、さすがに耐えられなくなって顔を上げた。

「…なんだよ」

「いや、なに…こんな料理とかされちまうと、本当ーにヨメさんみたいだよな、と思ってな」

 ニヤニヤと笑う顔はオヤジそのものだ。

「……」

 アキラは呆れてモノも言えずに大きな溜め息をつく。
 包丁を持っていたので、殴りかかるのだけは踏みとどまった。

 もう慣れたものだが、どうしてこんな相手を選んでしまったのか…。
 それでも離れられない自分が、一番不思議だ。


 そんな心情を知ってか知らずか、源泉は更に続ける。

「そうなんだよな…─ 最初、俺のガキが育ってたら、こんなふうになってたかもなって思った。
 それは、やっぱり…どことなく似てたんだな。ガキに似てるってことは…俺の元のカミさんにも似てるんだ、お前さん」

 ─ ダンッ…と、勢い良く振り下ろされた包丁から、真っ二つに割られた野菜が飛んだ。

「おい、危ないぞ。どうした?」

 何気なく呟いたのであろう本人は、言葉の意味にまったく気付いていないようだった。

 そんな態度が、無性に腹立たしい。

 咄嗟に、口を突いて出てくる、感情。

「─……俺は、代わりじゃない」

「ん? あ、違う! そういう意味で言ったんじゃない」

 さすがに伝わったのか、源泉は慌てて鍋を放り出して両手を合わせた。

「だったら…」

「それに、外見が似てるわけじゃない。なんつーか、こう…雰囲気とか…いや違うな」

「……?」

「ようするに、どっちも俺の好みにピッタリだったってことだ」

 いつもはいい加減なことばっかりなのに。

 たまにそんなことを言うから…。

「っ!」

 降参のポーズで両手を広げた源泉に、アキラは包丁を置いて拳を振り上げた。


(END - 2008.6.13.)