::::::「 死角の均衡 」:::::::





 
「俺は、アンタの賛牙、だろ?」

 思いっきり不機嫌な声を上げて、コノエはライを睨む。


 最初にそう言って連れて来たのは誰だ。

 しかし。


「それがどうした」

 ライはしれっと言い切り、背中を向けた。

「だったら! もっと信頼したらどうなんだ」

 その後ろ姿を呼び止め、コノエが低く唸る。



 命の遣り取りをした直後で、気が立っているのもある。
 その、先ほどの戦闘のさなか、ライの態度に非常に苛立ちを覚えたのだった。

 コノエは賛牙なのだ。
 闘牙を支援するために歌おうとしただけだ。
 それを無下に制され、あまつさえ剣を振るおうとしたその時。

「下がれ、足手まといだ」

 冷たく言い捨てられた。
 今思い出しても、腹が立つ。

 賛牙と闘牙はパートナーではないのか。
 その一方的な扱いは、信頼されていないということではないのか。


「足手まといになる賛牙なんて、ほっとけよ!」

 歩き始めたライに向けて、コノエは怒鳴る。
 何故ここまで苛々するのか判らない。

 あとは…そう、悲しいのかもしれない。

 せっかく、自分が役に立っていると思ったのに…──


「何を言っている。あの程度の雑魚を、ふたり掛かりで相手しろと言うのか」

「早く片付ければいいだろ?」

「動きが制限されて邪魔なだけだ。それに、そんなことでいちいち賛牙の力を使っていては体が持たん」

 ライが首だけで振り返って言う。ついでに一言添えることも忘れず。

「そんなことも解らないのか、馬鹿猫」

「…っ、俺だって、そのくらいは考えてる。それを、アンタが信頼してないってことだろ!?」

「フン…」

 否定も肯定もせず、ライは再び歩き出した。


 その背中に向かって、思いっきり爪を振り下ろしてやろうかと思う。

 と、思ったところで…気付いた。


「…ぁ」


 無防備な背中が目の前にある。
 もちろん、敵襲に備えての警戒はしているだろう。


 しかし、ライは敵に背を向けるような猫ではない。


 コノエがついて来ると疑ってもいない姿は、ある意味──信頼…なのだろうか。 

 当のライ自身がそうと気付いているかどうか解らない。

 それに、もしかしたら…コノエなど取るに足りないほどの扱いなのかもしれない。
 嫌な考えを、軽く頭を振って追い払う。


 それから、遠ざかっていく大きな背中を追いかけた。


 …いつか、あの背中を引っ掻いてやるか、

 ……それか、隣に立って戦えるようになろうと思う。




 


                       (終)

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まだ仲良くなりかけライコノ。
色々反発してすれ違ったらいいと思うのだよ。
コノエたんは強い子だと思ってます。