[ eyes on ... ]
(トウヤ+ユキヒト×アキラ)



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 一足早く、失敬したビールを片手にユキヒトが木陰を陣取っていた。
 トウヤも真似をして、のんびりと左手で缶を傾けながらその横に並んだ。
 どちらから声を掛けるでもなく、ただ隣にいて、ただその光景を眺める。


 仲間みんなで馬鹿騒ぎをしながら狭いワゴンの中で夜を明かした。
 それから、時間を気にせず気ままに川辺でバーベキューの準備。
 …あのトシマで過ごした日々からは想像も出来なかった日常。
 ─それが今、ここにはある。

 ふとした瞬間、トウヤはここに立っていられる不思議と共に、そんな感慨を覚える。
 すると、なんだか無性にむず痒くなって…何でもいいから話し掛けようとユキヒトを見れば、

「……」

 いつも鋭い瞳が幾分か和らいで、ある一点だけを見詰めていた。
 訊くまでもなくその視線の先を追うと──予想違わず、他の仲間と一緒に食材の用意をしているアキラの姿があった。

 トウヤを含め、だいぶユキヒト以外の仲間とも打ち解けてきたようだが、もともと一人でいる方が性に合うのか、今も一人危なっかしい手付きで缶詰と格闘しているようだ。
 なんでも器用にこなしているイメージのあるアキラだが、こういった細かいことは意外と苦手らしく、ついつい面倒を見てやりたくなってしまう。
 きっと、ユキヒトもそうなのだろう。


「そんなに気になるなら手伝ってやりゃいーだろうに」

「…別に」

 肩を竦めて溜め息をついても、素っ気無い答えが返ってくるだけだ。

「素直じゃねぇの」

「うるさい」

 ユキヒトが素直ではないのは今に始まったことではないし、そう言いつつもユキヒトがアキラを気に掛けているのは一目瞭然だ。
 一度軽くビールを呷っても、すぐに視線は戻るのだから。


「…まぁなんつーか…──俺も、あのまっすぐな眼で見られちまった時は、ちょっとヤバかったけどな」

 昨夜。ユキヒトたちを迎えに行った時、突然、アキラがジッとトウヤを見上げてきた。
 再会してから、何度かあった。幽霊を見るような…とまではいかないが、信じられないものを見るような、申し訳なさのような…そんな様々なものの入り交ざった視線を、まっすぐに向けてくる。
 トウヤ自身としては落とし前を付けたつもりだったし、生きていられるだけでも奇跡的なのだが、結果的に庇われてしまった立場のアキラは、この傷痕のことなども気にしているのかもしれない。
その場は冗談として笑って誤魔化すのだが──あの眼に射抜かれると…と、口を開こうとした瞬間、

「お前…」

 低い声と共に鋭い眼光が突き刺さった。

「あ? おい、冗談だって! 睨むなよ」

「ずいぶんと、つまらない冗談だな」

「…悪かったって」

 こうなっては、ただひたすら平謝りするしかない。二人の関係も、自分の立場も、承知の上だ。

「……」

 まだ何かを言いたそうなユキヒトだったが、小さく息を吐き再び視線を戻した。


 ちょうどその時、アキラが微かに顔をしかめたのが遠目からでも判った。

「…ったく、あの馬鹿」

 すぐさま、悪態をつきながらも、いかにも放っておけないという勢いでユキヒトが駆け出す。
 どうやら、缶切りで指を切ったらしい。ユキヒトが慣れた様子で看ている。
 以前から気の利く所はあったと思うが、冷静を絵に描いたような男が、よくこれだけ甲斐甲斐しくなったものだ。
 それも、相手があれならば仕方がないか、とも思う。

 そんな二人の姿を眺めながら。

「──…冗談、だったよな…?」

 先ほどのやりとりを思い出し、トウヤは誰にも聞こえないように…自分に言い聞かせるように、小さな声で呟いた。



─ END.(2008.6.29.無料配布ペーパー)