[ shaker shaker ]
(ユキヒト×アキラ)
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慣れないことをすると、予測しないことが起こる。
アキラは突然のことにしばらく固まっていたが、このまま逃げる訳にもいかない。
咄嗟に助けを求めてユキヒトを探したが、生憎フロアからは外れていた。
そのまま店のマスターに視線で訴えてみると──「もらっておけ」との仕草で示された。
仕方なく、
「…いただきます」
礼だけは忘れずに、アキラは差し出されたグラスに口をつけた。
すると、年配の女性客は嬉しそうに目を細めた。
ユキヒトのバイト先であるバーで、どうしても人が足りないのだと臨時でアキラが手伝いに来た。
アキラも洋食屋でのバイトには慣れてきた頃だし、そう大差はないだろうと思っていたのだが…。
勿論、客と一緒に飲んで接待する店ではない。
だが、たまに接客の中で話をしているうちに仲良くなり、奢ってもらったり、ということもあるそうだ。
話には聞いたことがあったが、アキラはたまたま手伝いに来ただけだ。
まさかそんな客がいるとは思ってもみなかった。
「もう一杯、いかが?」
「いや…」
もともと、酒はあまり好きではない。それに、仕事中なのだ。
しかし、きっぱりと断るとこの店…自分を連れて来たユキヒトに迷惑が掛かるものなのだろうか。
しばし葛藤していると、
「俺が頂いてもいいですか?」
普段は見せない接客用の柔らかい表情でユキヒトが割って入ってきた。
同時に、アキラをさり気なく下がらせてくれる。
有難くも複雑なものを抱きながら、アキラはもう一度礼をして奥へ下がった。
ユキヒトとは以前から馴染みの客だったようで、会話も弾んでいる。
ほどなくして終了時間となり、アキラは先にロッカーで着替えをしていた。
と、見慣れた赤い髪が入って来る。
その顔は、先ほど客に向けたものとは掛け離れた冷たさを放っていた。
「……」
顔を合わせづらくてフイっと視線を逸らせば、背後から肩を掴まれた。
無理やり、体ごとユキヒトの方を向かされる。
「…なんだよ」
不機嫌に睨むと、返ってくるのは溜め息。
「お前は…」
どうしてユキヒトにそんな反応をされなければならないのか。
助けられてはしまったが、失敗といえるほど仕事が出来なかったわけでもない。
「連れて来たのは俺だし、目を離したのも俺」
「…?」
「あの場合は仕方ないってのもわかってる。けど…」
「だから、なんだよ」
つらつらと無表情にしゃべるユキヒトを、アキラは促す。
「俺以外の前で飲むなよ」
「は?」
「顔、赤い」
「…!」
意識をすると、更に頬は真っ赤に染まる。
「本当に無防備過ぎる」
「俺は、別に…」
酔ってはいない。
無防備と言われる理由は、アキラ自身には解らなかった。
「俺が上がるまで、絶対一人で帰るなよ」
「なんだよそれ…」
─ だから、酔ってない、
と言おうとしたその時、
「でないと、誰に襲われるか…」
「…っ!」
唇への襲撃を実行したユキヒトが言ってのける。
誰もいないロッカーとはいえ、こんな場所で…。
さすがに合わせた唇はすぐに離ていき、ユキヒトは踵を返した。
「いいか、絶対だぞ」
「…、こんなの、お前以外…」
ユキヒト以外にいるはずがない、と言う間もなく、本人はロッカーを後にした。
すぐに帰ってやろうかと思ったが、すっかり力の抜けたアキラはその場に座り込んだ。
そして、少し乱暴に唇を拭った。
─ END.(2009.4.28.)